大阪高等裁判所 平成元年(ラ)495号 決定 1989年11月30日
抗告人
甲田花子
右代理人弁護士
河上泰廣
同
芝野義明
同
辻田博子
相手方
甲田一郎
主文
原審判を取消す。
本件を大阪家庭裁判所堺支部に差し戻す。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載の通りであり、本件保全処分申立の趣旨及び理由は、原審判書理由中の「一申立ての趣旨」及び「二申立ての理由」記載の通りであるから、これを引用する。
本件につき、原審判は、別居中の抗告人が夫である相手方に対し、一方で離婚訴訟を提起しながら、民法第七五二条に基づき抗告人の衣類や家財道具、子女の教科書、衣類等の引渡を求めることは、事実上の離婚状態の固定化を目的とするものであり、円満な夫婦生活の形成を目的とするものではないから許されないとして、抗告人の本件保全処分の申立を却下した。
しかし、別居中の夫婦であっても、また既に離婚訴訟が裁判所に係属していても、夫婦である限り原則として右規定にいう協力扶助の義務を免れることはできず、その一方は他の一方に対し事情に応じた協力扶助を求めることができるものと解するのが相当であるから、その一態様として、別居中の夫婦の一方が他の一方に対し生活上必要な衣類や日用品等の物件の引渡を求めた場合には、他の一方は自己の生活に必要でない限り、これに応じる義務を負うものといわなくてはならない。また、別居中の夫婦の一方が他の一方に対して引渡を求める物件の中に自己の所有物件が含まれている場合、これについては民事訴訟法上の仮処分によってその引渡を求めることができるとしても、そのために右仮処分とは趣旨・目的を異にする家事審判法による審判前の保全処分が許されないものとする理由はない。
従って、前記理由によって抗告人の本件保全処分の申立を却下した原審判は失当であるからこれを取消し、本件については右申立の理由の有無(特に、抗告人主張の個々の物件につきその引渡の必要性の有無)につき更に審理する必要があるから、本件を大阪家庭裁判所堺支部に差戻すこととして、主文の通り決定する。
(裁判長裁判官中川臣朗 裁判官緒賀恒雄 裁判官長門栄吉)